携帯電波の届かない屋外エリア

山岳トレイル、野外キャンプ、船団、遠隔地の森林巡回ポイントには携帯電波が届かないことが多く、大規模イベント会場では公衆網が混雑します。こうした現場で必要なのは帯域幅ではなく、メンバー同士でテキストをやり取りし、互いの位置を確認し、異常時に自分の位置を送れることです。

LoRa Mesh(本記事ではオープンソースの Meshtastic ファームウェアを例とします)は、低消費電力の LoRa 無線でこうした低帯域データを運びます。ノードがホップごとに転送し、基地局・ゲートウェイ・インターネットに依存しません。選定では四つの点を同時に確認します:何のデータを送るか、ノードをどこに置くか、人員が何を携帯するか、機器の電源と周波数帯をどう設定するか。

本記事はこの四段階ごとに判断基準と対照表を示します。距離やバッテリー持続時間などの数値は公式 Wiki とデータシートに記載された公称値であり、本記事での実測値ではありません。 数値の扱いは末尾を参照してください。

選定早見表

要件対応機種ネットワーク内の役割根拠(公称)参考価格
商用電源のない地点の固定中継、バッテリーと測位を内蔵SenseCAP Solar Node P1-Pro固定中継ノード5W ソーラーパネル + 18650 バッテリー 4 本;開けた場所で 8–9 km;IPX6約 $90–105
ノード測位不要の固定中継、予算を抑えるSenseCAP Solar Node P1固定中継ノードP1-Pro と同じソーラーノード;GPS なし、バッテリー別売(18650 を用意)約 $70–85(バッテリーなし)
人員が携帯し、テキスト送受信と位置共有SenseCAP T1000-E for Meshtastic人員端末カードサイズ、32 g;GNSS 測位;2–8 km(アンテナ、設置、環境による);IP65約 $38–46
案件開始前のプロトタイプ検証、机上での動作確認XIAO nRF52840 & Wio-SX1262 Kit for Meshtasticプロトタイプノード筐体なし。バッテリーとアンテナは必要に応じて外付け約 $13–20

参考価格は照会時点の 1 台あたり参考価格で、規模感の判断にのみ使います。構成・数量・時期により変動するため、ご注文時は商品ページの価格を正としてください。

上表の結論が変わる三つの条件:

  • 映像・音声・画像・大容量ファイルを送る必要がある —— LoRa Mesh は適しません。別の通信手段が必要です。本構成が扱うのはテキストメッセージ、位置、小容量テレメトリのみです
  • データをクラウドプラットフォームや顧客システムに送る必要がある —— メッシュ網自体にゲートウェイは不要です。クラウドに接続する場合は LoRaWAN ゲートウェイを追加するか、Meshtastic の MQTT 経由で接続します
  • 中国本土で導入する —— 上記機器のハードウェア公称周波数範囲は 862/863–930 MHz で、Meshtastic の CN リージョン(470–510 MHz)をカバーしません。発注前に対象国で使用可能な周波数帯を確認してください

要件が明確な場合は上表から選定できます。判断の根拠を確認する場合は、以下の四段階に進んでください。


オフグリッド通信に LoRa Mesh を使う理由

以下の四段階は「ノード同士が直接ネットワークを構成し、インフラに依存しない」ことを前提としています。携帯網や固定ゲートウェイ方式との違いは三点です。

基地局もゲートウェイも不要。 各ノードは自身のデータを送受信すると同時に、他ノードのデータを転送します。人員端末と固定ノードだけでネットワークが成立し、スマートフォンは Bluetooth で端末に接続してメッセージと位置を表示します。

ノードを追加してカバー範囲を広げる。 1 ホップの距離は地形、設置高さ、アンテナに左右されます。2 台の端末が 1 ホップの範囲を超える場合は、中間のノードが転送します。Meshtastic の転送は既定で最大 3 ホップ、最大 7 ホップまで設定できます。

ネットワーク内の通信は暗号化される。 Meshtastic はチャンネルごとにメッセージ内容を暗号化し、ダイレクトメッセージはさらに公開鍵で暗号化します。チャンネルに参加していない機器は内容を読めません。

制約も明確です。LoRa は低速リンクであり、テキスト、位置、小容量のセンサーデータにのみ適しています。


システム構成と三種類の機器

LoRa Mesh オフグリッド通信のシステム構成

端末層(人員端末 / センサー)→ 中継層(LoRa Mesh ノードがホップごとに転送)→ アプリケーション層(スマートフォンアプリまたは顧客プラットフォーム)

LoRa Mesh オフグリッド通信ネットワークは三種類の機器で構成されます。

固定中継ノード:カバー範囲を広げる

遠隔保護区の中継ノードとデータ送信

高所に設置した固定ノードが、人員端末とセンサーノードのデータをホップごとに転送します

尾根、屋上、ポールなどの高所に設置し、常時稼働して他ノードのデータを転送します。商用電源のない地点では、ソーラー給電の SenseCAP Solar Node P1 / P1-Pro を使います。Meshtastic ファームウェアはプリインストール済みです。

人員端末:メッセージ送受信と位置報告

人員端末を携帯して位置を共有する登山グループ

登山メンバーがカード型端末を携帯し、スマートフォンアプリで仲間の位置を確認します

人員が携帯する機器です。SenseCAP T1000-E for Meshtastic はカード型で GNSS を内蔵し、Bluetooth でスマートフォンとペアリングすると、Meshtastic アプリでテキストの送受信、周辺ノードと位置の確認ができます。スマートフォンに接続していなくても、本体ボタンを 2 回押すと現在位置を送信できます。

スマートフォンアプリと任意のクラウドプラットフォーム

Meshtastic は iOS / Android アプリと Web クライアントを提供しています。メッシュ網のみで運用する場合、アプリがアプリケーション層になります。データをクラウドに集約する場合は LoRaWAN ゲートウェイを追加します。Meshtastic は MQTT によるインターネットブリッジにも対応し、離れた場所のメッシュ網同士を接続できます。


ステップ 1:通信要件を決める

選定の前に、送るデータを確認します。LoRa Mesh が運ぶのはテキストと位置で、映像は送れません。

通信要件送信内容実現方法必要な機器
テキストメッセージチャンネルのグループチャットまたはダイレクトメッセージスマートフォンアプリから Bluetooth 経由で端末を通じて送信T1000-E + スマートフォン
位置共有端末の GNSS 位置端末が設定間隔で自動ブロードキャストし、アプリの地図で確認T1000-E(または Solar Node P1-Pro のノード位置)
救援要請現在位置 + テキストでの説明本体ボタンを 2 回押して位置を送信し、アプリからテキストで救援を要請T1000-E + スマートフォン
環境テレメトリ温度などの小容量データノードが定期ブロードキャストT1000-E 内蔵温度センサー;Solar Node P1-Pro は Grove センサーを接続可能
映像 / 音声 / 画像—非対応別の通信手段が必要

判断ルール:

  1. 人員の位置を確認する必要がある → 1 人 1 台の T1000-E。固定地点間でメッセージを送るだけならノードのみで構成
  2. 救援要請にテキストでの説明を付けたい → スマートフォンも携帯。T1000-E のみの場合は位置しか送れません
  3. データを顧客プラットフォームに送る → ステップ 2 で LoRaWAN ゲートウェイまたは MQTT 接続ポイントを計画し、接続ポイントにネットワーク回線があることを確認。不要ならアプリで確認できます

適用範囲。 LoRa は低速リンクのため、本構成は音声通話を扱いません。無線通話やリアルタイムの指令が必要な案件では、メッシュは位置とテキストの補助回線にとどまります。

ステップ 2:ノード配置とカバー範囲を計画する

ステップ 1 で人員と地点の分布が決まったので、ここでは固定ノードの台数と設置場所を決めます。

機種測位バッテリー保護等級用途参考価格
Solar Node P1-ProGPS/GLONASS/Galileo18650 × 4、各 3350mAhIPX6長期無人運用の中継、ノード位置が必要約 $90–105
Solar Node P1なし別売、18650 を用意IPX6予算重視、ノード位置不要の中継約 $70–85
XIAO nRF52840 & Wio-SX1262 Kitなしプロトタイプに応じて外付け筐体なしプロトタイプ検証、機能確認約 $13–20

Solar Node の開けた場所での公称 1 ホップ距離は 8–9 km です。山地、森林、建物の密集地では 1 ホップの距離はこれより大幅に短くなります。

判断ルール:

  1. 2 地点間の見通しが良く、距離が公称 1 ホップ距離以内 → 両端に 1 台ずつで足り、中継は不要
  2. 2 地点間に尾根、密林、建物がある → 中間の高所に中継ノードを 1 台追加。3 ホップを超える場合は、まずノードの設置高さを上げ、その後でホップ上限の変更を検討
  3. 中継ノードの位置を地図に表示したい、またはバッテリー交換が難しい地点 → P1-Pro。転送のみで、現場でバッテリーを用意できる → P1
  4. 固定ノードは Meshtastic で ROUTER ロール、人員端末は CLIENT または TRACKER → 同一ネットワーク内の全機器でリージョンとモデムプリセットを揃えないと通信できません

適用範囲。 ノード台数は公称距離だけでは算出できません。まず計画地点に 2〜3 台のノードを設置し、T1000-E を持ってカバー範囲を歩いて確認してから総台数を決めてください。ホップ数が多いほど網内の転送回数とネットワーク負荷が増えます。公式ドキュメントでは、多くの用途で既定の 3 ホップで十分とされています。

ステップ 3:人員端末を選ぶ

ステップ 2 でカバー範囲を確保したので、ここでは各人員が携帯する機器を決めます。SenseCAP T1000-E for Meshtastic の主な仕様:

項目公称値
通信距離2–8 km(アンテナ、設置、環境による)
測位精度約 10 m CEP
ボタン2 回押し:位置送信;3 回押し:GPS オン/オフ;長押し:電源オフ
バッテリー700mAh 充電式リチウム電池、最長約 2 日
充電マグネット式充電ケーブル、充電温度 0–45°C
保護等級 / 動作温度IP65 / -20~60°C
サイズ / 重量85 × 55 × 6.5 mm / 32 g
参考価格約 $38–46

判断ルール:

  1. 日帰りで、毎晩電源のある場所に戻れる → T1000-E を毎晩充電すれば足ります
  2. 複数日の活動で、途中に固定電源がない → アプリで位置報告の間隔を長くし、端末ごとに充電手段(モバイルバッテリーとマグネット式ケーブル)を用意。報告間隔が短いほど持続時間は短くなります
  3. 既に LoRaWAN ネットワークがあり、メッシュは不要 → 同じ外形の SenseCAP T1000-E for LoRaWAN を選択。メッシュ網には参加しません
  4. 低温環境 → 動作温度の下限は -20°C ですが、充電温度は 0–45°C です。0°C を下回る場合は屋内や保温できる場所で充電します

適用範囲。 T1000-E とスマートフォンは Bluetooth で接続し、テキストの送受信はスマートフォンアプリに依存します。スマートフォンを携帯しない場合、端末は位置を送れるだけで、テキストの送受信はできません。

ステップ 4:電源、設置場所、周波数帯を決める

ステップ 1〜3 で機器リストが決まりました。ここでは機器が現場で長期間動作できるかを決めます。判断基準はまず周波数帯の法規適合、次に設置高さと電源です。

Meshtastic では、現地の電波法規に適合するよう、全機器に LoRa リージョンを設定する必要があります。主なリージョン:

リージョンコード周波数範囲 (MHz)上記機器の対応
US902.0–928.0対応
EU_868869.4–869.65対応;欧州リージョンは 10% のデューティサイクル制限あり(直近 1 時間で計算)
ANZ915.0–928.0対応
JP920.5–923.5対応
KR920.0–923.0対応
TW920.0–925.0対応
IN865.0–867.0対応
CN470.0–510.0非対応(ハードウェア公称範囲 862/863–930 MHz)

設置地点ごとの電源:

地点電源機種
商用電源なし、長期無人運用5W ソーラーパネル + 18650 バッテリーSolar Node P1-Pro(バッテリー付属)/ P1(バッテリー別途用意)
USB 給電が可能Type-C 5V 1ASolar Node
人員が携帯700mAh 内蔵バッテリー、マグネット式ケーブルで充電T1000-E
プロトタイプ、屋内での動作確認USB または外部バッテリーXIAO Meshtastic キット

判断ルール:

  1. 対象国が上表で「対応」のリージョン → 全機器を同じリージョンに設定。Solar Node のオプションアンテナも周波数帯ごとに分かれる(EU868 と US915 など)ため、発注時に合わせて確認
  2. 欧州での導入で、メッセージ量が多い → 10% のデューティサイクルで 1 時間あたりの送信時間が制限されるため、位置報告の間隔を長くする
  3. 固定ノードの設置地点 → 高所に設置し、ノード間の見通しをできるだけ確保。ソーラーパネルは水が溜まらないよう傾けて設置し、IPX6 を保つため筐体の装着とネジの締め付けを確認
  4. 冬季に低温となる地域 → Solar Node が使う 18650 バッテリーの充電温度は 0–50°C で、0°C を下回ると充電温度範囲外になります。冬季の稼働時間はバッテリー容量に余裕を持たせて見積もります

適用範囲。 周波数帯の適合は対象国の電波法規に従います。中国本土での案件、または使用可能な周波数帯が 862–930 MHz の範囲外となる国では、上記機器は使用できません。


ソリューションプロバイダー・SIer 向け:検証から納品まで

本構成を下流の顧客に納品する場合、次の三点を選定段階で確認してください。

検証の手順。 二段階を推奨します。まず XIAO Meshtastic キットと T1000-E を使い、オフィス環境でメッセージ、位置、アプリの流れを検証します。次に顧客の現場で計画地点に Solar Node を設置して小規模に試験し、1 ホップ距離とホップ数を実測してノード台数を決めます。Seeed Wiki の Meshtastic 紹介ページに各機器の導入ドキュメントがまとめられています。

プラットフォーム連携。 メッシュ網のみで運用する場合、顧客は Meshtastic アプリでメッセージと位置を確認できます。顧客独自の指令・管理プラットフォームと連携する場合は二点を確認します:データを LoRaWAN ゲートウェイと Meshtastic MQTT のどちらでプラットフォームに送るか、接続ポイントの設置場所にネットワーク回線があるか。

ハードウェアのカスタマイズと量産供給。 Meshtastic はオープンソースのファームウェアで、ノードと端末はこれをもとに設定を調整できます。ロゴ、外観、パッケージ、プリインストールファームウェアなどのカスタマイズ範囲、認証、納期は ODM/OEM カスタマイズサービスをご覧ください。

算出基準と比較範囲

本記事にはメッシュネットワークの実測データを含みません。 距離、バッテリー持続時間、測位精度は、公式 Wiki、製品ページ、データシートの公称値です。距離は地形、設置高さ、アンテナ、モデムプリセットに、バッテリー持続時間は測位間隔、温度、ネットワークのカバー状況に左右されます。正式な納品の前に、顧客の現場で試験測定を行ってください。

機器データは Seeed 自社製品ラインに基づきます。 本記事の手順(送信内容を決め、ノードとホップを計画し、人員端末を選び、最後に周波数帯と電源を確認する)は特定ブランドに依存せず、他の Meshtastic 対応機器にも同様に適用できます。

データ出典と測定条件